Palabra

日々「言葉」をひろっています

上野5句④ 子規球場

初夏やスマトラトラの縞太し

動物に国境は無し夏の空

夏雲やお化け灯籠芝居小屋

子規記念球場走る夏帽子

チェンバロの奏楽堂に夏始

子規記念球場

上野公園には「正岡子規記念球場」があります。野球の愛好者で、多くの野球用語を和訳したことでも知られる子規は、この球場がある上野公園内で野球を楽しんでいたといわれます。球場には「春風やまりを投げたき草の原」という句碑が立っています。

上野5句③ ゴリラ

公園の噴水屋根に弧を描く

噴水を離れて親子精養軒

新緑や桜林堂の小鯛焼き

飛行船何処へ行くか夏の雲

氷菓子食ふ子を眺む親ゴリラ

ゴリラ

上野動物園は、1882年に開設された日本初の動物園。いまはパンダのシャンシャンの話題で盛り上がっていますが、各地の動物園から集めたゴリラを自然な環境のもとで繁殖させるためゴリラ舎を建設するなど全国の動物園の中核的な役割を担って来ています。

上野5句② 西郷像

アメ横で被り比べて夏帽子

緑蔭や西郷隆盛犬はツン

西郷の顔は緑青夏木立

江戸城の丑寅の夏上野山

生き急ぐ彰義隊士の暑き夏

(古150513)

西郷像

上野公園に立っている西郷隆盛像は高村光雲の作(傍らの犬「ツン」は後藤貞行作)、鋳造は岡崎雪聲。全国2万5千人余の寄付金などで建立され、西郷の死後21年後の1898(明治31)年12月に除幕式が行われました。

上野5句① 上野山

夏きざす上野の山の人の山

夏立ちぬ舌状台地上野山

上野駅響き懐かし夏来る

帰省子やお国訛りの混じりつつ

アメ横に赤き彩り蛸の足

(古150513)

上野
*1930年代の上野(wiki)

東京の上野については、室町時代の1559(永禄2)年の『小田原衆所領役帳』に「低野に対する草茂りたる丘」として上野の名がみえるとか。また、江戸幕府が開かれたとき伊賀国(三重県)上野の城主藤堂高虎の屋敷があり、高虎が伊賀上野をしのんで命名したという言い伝えもあるそうです。

ネジ

ネジを巻く
ちょっぴり緩んだ
ネジを巻く
初夏の日差しだけの道端で
ネジを巻いている
マゾヒズムの好悪だけの荘厳なる儀式を終えて
ネジを巻く
やせ我慢の幸福が洗濯竿にぶらさがっている下町で
ネジを巻いている
奴隷なる未来 草枕のユートピアで
自意識のネジを巻いていくのだ
排泄を待つばかりの美しき退屈
百里の半ばに九十九里がおかれている
道半ばにてネジを巻いてゆく
大いなる死者たちが茶飲み話をしている
玉は砕け散っても崩れぬ屋根瓦の軒先で
私はネジを巻いている

(じ150509)

ネジ

円筒表面のつる巻線に沿い、一様な突起をつけた部品を総称して「ネジ」。漢字では、螺子、捻子、捩子、根子ながあてられます。また、動詞「捩づ」の連用形でもあります。

黒幕

メスがメスを抱え込み
ワギナとワギナを摺り合わせる
ほかほかっ
を繰り返し
ボスの妃デラと緊密になったヒカは
デラの死のあと一躍のしあがり
長男イオをボスに据え
次女の長男ニオをその後継者に定め
一七年間の安定政権を築いた

(利150609)

ヤク猿

ニホンザルは1960年代までは、オスのリーダーが統制する順位制社会を作っているとみられていました。が、いまでは群れの中心はむしろメスで、母から娘への血縁関係を軸に成り立っていると考えられています。

本棚

そこには
ぼくの混沌がある。
一冊捨てる
二冊古本屋へ持ってゆく。
ずらす
三冊分の隙間ができる
四冊買って
差し込む。
ぼくも少し
ずれた
気がする。

(利150527)

ほん

いま一般に見られる「本棚」が普及したのは大正時代後半に入って、関東大震災を契機に広がったと考えられています。当時はもっぱら読み終えた本を分類して収めるために利用していたとか。

音楽

深さ0.1ミクロン
幅0.4ミクロン
長さ5ミクロン
手のひらサイズの銀盤に
渦状星雲のように刻まれた60億個の凹みに
1ミクロンに絞った
薄青いレーザ光の針を
のせる。
干渉回折のシグナル。
ゼロ・ワン・ゼロ・ターン・タ

(利150603)

cd02

CDなどのディスクには細かいくぼみ(ピット)が彫られ、そのパターンによってデジタル情報を表現しています。

クラゲ

透明に泳ぐことなんて
かあちゃんの腹のなか
えら呼吸をしていたときにもう
わすれちゃってたんだ

何十億年も前に海水のなかに
出現したアメーバだって
へなへなのクラゲだって
透明になんてなれやしない

アメーバのまんま人間になって
子どものまんま大人になって
覚えたことば忘れていって
それでも羊水また泳ぎたくって

生きてゆくこと消えさること
覚えたことは忘れるために
生まれたときからしょっぱい人生
透明に老いてゆくことなんて

(じ150510)

クラゲ

「クラゲ」は、漢字で書くと水母。体はゼラチン質で柔らかく、透明。多くは傘のような形をしていて、傘の内面中央にある口、続いて胃などがあり、傘縁から触手が垂れ下がっています。

運びや

絨毛突起の束を
くねらせ
水晶の棘を
もたげながら
盗んでいった。
遺伝子組換データ漏洩容疑の
ミヤマモンキチョウが
舞いおどる。

(利150606)

miyamamonki

「ミヤマモンキチョウ」=写真、嬬恋インタープリター会のWebサイトから借用=は、中部山岳の標高2000m付近に棲息する高山蝶で、前翅の開張幅40~50ミリ、翅表は雄が黄、雌は黄白色で、いずれも外縁に幅広い黒色帯をもち、前翅の中央前寄りに小黒紋が1個あります。

智恵子(5句)

開かざる勝鬨橋や町薄暑

一陣の風に招かれ青田道

ざざめきて十万億土雨蛙

飛行士は夏至の地球に帰還せり

あどけなき智恵子を誘ふ火取虫

(り9月)

ちえこ

高村光太郎の『智恵子抄』で知られる高村智恵子(1886-1938)=写真、wiki=は、1931年ごろから精神分裂症を病み、千葉県の九十九里浜で紙絵を作りながら療養生活を送りました。

温暖化

アルフレット・ウェゲナーが
大陸が移動しているのに気づいたのは
世界地図を眺めていたときのこと
破いた新聞紙の切れあとのギザギザをつなぐように
大陸の凹凸を縫い合わせたら一枚になる
と思った。
超音速でプラズマが流れる
太陽風に晒されている地球の
一瞬でぼくも
冷房の針が刺すミシンで
縫い込み
辻褄を合わせている。

(利150618)

Wegener

「アルフレット・ウェゲナー」(1880-1930)はドイツの地質学者、気象学者。4回にわたってグリーンランド探検隊に加わり、極地の気団を研究。1912年には大陸移動説の提唱しますが、当時は学界で認められず、不遇のうちにグリーンランド探検中に遭難死しました。

一九九九年

葬列を離れて
盲目の手風琴弾きは
ザイールへむかって
旅だった。
ぼくは飛び降りたことのないベランダで
気休めの言葉に当惑しながら
干し蒲団を
叩いている。
ブラックホールに
雪が舞い込みはじめた。

(利150620)

アコーディオン

「手風琴」は、アコーディオンのこと。手でふいごを操作しながら演奏することから手風琴とも呼ばれます。1821年にウィーンのブッシュマンが発明しました。

殺しや

クリプトスポリジウム
直径五ミクロンの原虫。
小腸の粘膜の上皮細胞の微細な膜にすみ
腸の栄養素を吸い取って
分裂を重ねる。
エイズ患者に取り付くと
コレラみたいな下痢を起こす。
死ぬまで出っぱなし
止まらない便に混じって
死ぬ前に脱出する。

(利150602)

crytonhk2

「クリプトスポリジウム」=写真=という原虫は、感染すると腸内で大増殖し、激しい下痢を招きます。欧米のエイズ患者の2割が感染しているというデータもあるそうです。

ヤる

朝かおを洗っていたら
尖った爪を立てて
うしろから羽交い締め
かとおもったら
がぶっ
太腿を噛まれた。
居間に上がり込んだ
かとおもったら
蜜柑を頬張り
ジロッと目を据えて
覗きこんだ。
サルが襲ってきた。

(利150611)

サル

ニホンザル=写真、wiki=の社会は、20~100頭の群れと、それに所属しないヒトリザルとの二つの要素から成っています。群れで生まれた雄は性成熟前後のある時、ほとんどの個体がその群れを離れてヒトリザルになり、他の群れに接近して雌と性関係をもったりしましす。

ついでにぶらり探しに出かける
無くしたわけではない
気づかないできたもの
つかまえきれて居らぬもの
巣立つ年でなく
巣作る所以もなし
求めず それでも
まだ得られず
あるもの

(じ150701)

巣

「巣」=写真、wiki=は、動物がみずから造って産卵、抱卵、育児、また休息や就眠に使う構造物や穴をいいます。もともと鳥獣を対象として用いられた言葉だったのが、ほかの動物にも拡張して用いられるようになったようです。

もういっちょ

雲の刷毛で
空の掃除をはじめた
いく重にも跨いでいた連山は
ビルのぎざぎざで途切れ
あれやこれやの空のがらくたを
入道雲のバキュームカーが
ふうふううなりながら吸い集めている
すかっと捨てて拭き取って
てなわけいかない宙ぶらりん
それでも
あ〜あ
もういっちょ

(じ150713)

バキューム

「バキュームカー」は、液体輸送用のタンク車の一種で、真空ポンプによる自動吸排液装置をもつ自動車、特に屎尿の汲取りに使用される車を呼びます。下水道が普及した近年は、屎尿汲取り用車は小型化し、生産台数も減っています。

進化

コンゴのボッソウ村の
メタ道具(道具を作る道具)を作る
ボノボたちはいつか
コンドームを作るための道具を作って
人口爆発に歯止めをかけるのか。
ボルネオの熱帯林の林冠を渡る 渡る
テングザルの鼻が
もし一センチ短かったなら
ぼくはいなかったのだろうか。

(利150610)

ボノボ

チンバンジーより知能が高く、限りなく人間に近い猿とされる「ボノボ」=写真、wiki=は、コンゴ民主共和国中西部の固有種で、体長はオス80、メス75センチ程度。子の母親への依存度が高く、二足歩行が得意です。

のぞみ

マサカリで
マサカリカボチャを割って
食いたくなった。
うまくはない
けれど腹もちよくて
頑固な あの
歯ごたえ。
シジュウカラガンの濁声を聞きたくなった
ギンギツネに殺られて群れをなくすまえの。
最期を看取りたくなった
根頭癌腫瘍にかかった千年大樹の。

(利150617)

カボチャ

「マサカリカボチャ」は、皮が非常に硬くて太刀やまさかりでなければ割れないとされる幻のかぼちゃ。味は非常に粉質性が強く、甘みもあります。米国から北海道に輸入され気候に順化したと考えられています。

犀の川に枕を放り込む
足跡を投げつける
舟の代わりに
雲を浮かばせてみる
川べりの田んぼの
若苗をのら くら
鴨がまたいで
通り過ぎてゆく

(じ150630)

250px-合鴨農法

雑草や害虫をアイガモに食べさせ、そのふんを肥料にして無農薬・低化学肥料で稲を育てる(合鴨農法)=写真、wiki=こともあります。通常、水田1反当り20羽ほどのアイガモを放すそうです。

勝鬨橋(6句)

辻に入るちんちん電車夕薄暑

町薄暑勝鬨橋は開かず橋

飛行士が夏至の地球に帰還せり

夏至の日や峠の先も九十九折

酔ひ染まり俯き顔にサングラス

サングラス外し顕るわらべ顔

勝鬨橋

「勝鬨橋」=写真、wiki=は、1940(昭和15)年に開通した隅田川にかかる可動橋。長さ246メートル。中央部の約50メートルが、川を行き来する船舶のため真ん中からハの字に開いていましたが、橋の交通量増加などのため1970(昭和45)年11月29日を最後に中止されました。

錆びついたナイフで
胸を突き
噴流
を浴びる。
マントル下部でうまれ
地殻を動かしているという。
1206年モンゴル高原
オノン川上流でのクルタイ(族長会議)で
チンギス・ハーンとなったテムジンが
飲み干したという。

(利150619)

チンギス

「テムジン」はモンゴル高原の統一をすすめ、1206年オノン河畔で、クリルタイ(最高決議機関)を開いてチンギス・ハーンの称号(ハーン)を受け、モンゴル帝国を建設。ハーンを頂点とする遊牧国家の支配体制を確立していきます。

重力

するめを齧りあきて
午後のオートミール
屋上には赤いタワークレーン
まだ引っ掛かっている
引っ掛かってはいる

(じ150624)

タワー

「タワークレーン」の解体は、親亀・子亀・孫亀方式、すなわち、ひと回り小さい子クレーンで親クレーンを、さらに子クレーンは孫クレーンで、と解体を繰り返し、最後は人力で解体してエレベーターで下ろされるそうです。

仕事

ランダムに寄せてくる
波打際
五万光年
われわれの銀河のはずれあたりに
情熱は凍りついている。
時間は
大腸菌が生んでいる
寝言。

(利150526)

大腸菌

「大腸菌」=写真、wiki=は、幅0.4〜0.7μm、長さ2〜4μm。腸内に通常見られる大腸菌は無害ですが、病原性大腸菌と呼ばれる一群のものは下痢や腸炎を引き起こします。1996年に大発生したO−15もその一種。大腸菌は衛生状態の指標になります。

風呂吹(5句)

干柿や懐深き母屋の軒

くさめして母の沈黙破れたり

大根を洗ふ老母の古束子

風呂吹や言ひすぎ悔いて居りにけり

着ぶくれど小さき母の猫背かな

(りP㊦)

風呂吹き

大根やカブをゆでてユズみそなどをかけて食べる「風呂吹」。1708(宝永5)年に大坂竹本座で初演された近松門左衛門の「傾城反魂香(けいせいはんごんこう)」には「人参(にんじん)の風呂吹」という言葉もあります。

栗飯(5句)

惚け立つ母の裸体や洗ひ髪

母一人入れ歯を探す夜寒かな

栗飯を炊くは亡父と二人分

銅鑼焼を銜へし母や秋夕焼

しやりと梨齧る入れ歯の音高し

(りP㊥)

クリ

白米にむき栗を入れて炊き込む栗飯。白米の旨みと栗のほくほくした歯ごたえ、栗のほのかな甘みが格別です。

たんぽぽ(5句)

春疾風母は頭のリハビリ中

徘徊か散歩途上か猫さかる

迷ひ入るたんぽぽ畑夢うつつ

手のひらの蛙と語る老母かな

序破急のこころ跳ね散る庭花火

(りP㊤)

たんぽぽ

「たんぽぽ」の花茎を短く切って両端を裂き、水に浸けると、放射状に両端が反り返って鼓の形に似ています。柳田国男らは、そのツヅミグサから鼓を打つ音(タンポンポン)と結び付いて、たんぽぽの名が成立したと説いています。

辞書

母音の鼓動をたよりに
代名詞の爪を突き立てて
点過去線過去現在完了現在進行未来過去
辞書に齧りつきよじ登ってゆく。
なにをこの野郎御託ならべてべらぼうめえ
何いってやがる株っかじりちんけいとうめ
と 因縁をつけあいながら。

(利150608)

辞書

「辞書」の起源もギリシアに求められます。紀元前2世紀、アレクサンドリア図書館長のアリストファネスは『ギリシア語難語辞典』を編みました。

折返し

終着駅のわからぬまんま
折返し点を曲がる
いちどきた道
いちど見た景色
いちど逢った人
行きはよいけど逆さ道
もどればきっと
閉じられる

(じ150709)

折り返し

1964(昭和39)年の東京オリンピックでは、甲州街道が、競歩とマラソンのコースになりました。調布市の味の素スタジア前の交差点にはその記念碑が立っています。

アべべ

裸足のアべべが
ジャワ原人の子孫たちを
牛蒡抜きにして
無言でゴールに飛び込んだのは
アウストラロピテクスが
木をおり
ことばを覚えてから
どれくらい経ってからだったろう

(利150613)

アベベ

「アベベ」(Bikila Abebe、1932-1973)=写真、wiki=は、1960年のローマ、64年東京オリンピックと、いずれも世界新記録で2連覇したエチオピアのマラソン選手。裸足で走ったので「裸足の王様」と言われましたが69年に自動車事故で車椅子生活を余儀なくされ、75年に脳溢血で亡くなりました。

道くさ

入道雲に首輪をはめて
散歩に出かけた。
どう どう ドッ ドオッ
いまさらあわててみたって
もわっと浮き立つだけ
たまには踏みしめて
みたらっ。
林檎顔の小学生たちが
道くさ道くさ
畦道を帰ってゆく。

(じ150703)

入道

「入道雲」=写真、wiki=は、発達した積雲や積乱雲の俗称で、たこ入道のような形になることから付けられました。夏に多く発生し、夕立や雷雨をもたらします。関東では坂東太郎、関西では丹波太郎、福岡付近では筑紫太郎などとも呼ばれます。

石笛

エジプトを
メソポタミアを長江を
跨ぎ
石笛は
八千年の全休符をはさんで
空気を振らせはじめた。
縄文文明人の波長で
透きとおって。

(利150616)

岩笛

「石笛」(いわぶえ)は、球あるいは卵形をした石製の気鳴楽器。縄文時代の遺跡から発掘された日本最古の笛です。高い周波数の、澄んで神秘的な音を奏でます。

かお

グリセリン酢酸カリに
漬かって
桃色に照る禿頭
やや肥大したほお
ひびきそうな鼻
おいてけぼりになったまま
さらしている。
「埋めてしまえの声強し」
と世紀末の新聞にはある。
ウラジミル=イリイチ=レーニンよ。

(利150622)

レーニン

「レーニン」(1870-1924)は、ソ連の革命家、思想家。1917年、ボリシェビキを率いて十月革命を成功させて、史上初の社会主義政権を樹立。1922年から脳軟化症による発作をしばしば起こし、1924年1月にモスクワ郊外で息を引き取り、遺体はモスクワ赤の広場の廟に安置されました。

石榴口

石榴口をくぐった奥には
風呂の暗闇
声かけあって
裸と裸

 常にたくを風呂といいて
 あけの戸なきを石榴風呂とは
 かがみいるとの心なり
 鏡を磨くに石榴の酢を用ゆ(嬉遊笑覧)

石榴口をくぐった後は
醒めるときまで
生の暗闇
一期一会の人と人

(じ150511)

石榴口

「石榴口」=写真、wiki=は、江戸時代の銭湯で、湯船と流し場とを仕切る板戸のこと。湯がさめず、蒸気が逃げないためのもので、お客は板戸の下の低い入口をくぐって薄暗い湯船へ入りました。語源は、ザクロの実の汁で鏡をみがいたため「かがみ入る」としゃれたのだとか。

麦わら帽子

瑞穂の国に
稲穂たれ
携帯電話に
首部たれ
コンビニ袋
ぶら下げて
畦を行き交う
麦わら帽子

(じ150705)

麦藁帽子

日本の「麦わら帽子」は、原料の麦わらを漂白、あるいは染色して平たくつぶした7本の茎を、真田ひものように編んだものを材料に、専用のミシンで渦巻き状に縫い合わせて作られます。

アルキメデス

いくら三角測量を繰り返しても
計りきれない過去未来形に
ダウンロード
している
みちのくの泥んこ相撲
防潮堤のアルキメデス
曙光の国ギリシャびとの
開き直り めぐり旅
つながり 途切れて
とりとめなく 海図

(し150706)

Archimedes

「アルキメデス」(前287-前212ころ)は、古代ギリシアの数学者。入浴中に浮力に関する原理を発見し、服を着るのを忘れて「わかったぞ!」と叫びながら裸で通リへかけだしたという話や、てこの原理を見つけて「私に立つ場所を与えるなら、地球をも動かそう」と言ったという話などが伝わっています。

六条大麦(5句)

惑星の瘤の上にて御来光

夢少女六条大麦麦茶干す

酔ひ染まり俯く顔のサングラス

バス停に朝顔市のハートの葉

風鈴や顔もおぼろな隣びと

(り150714)

六条麦茶

麦茶の原料はふつう「六条大麦」が使われます。穂を上から見ると穂の実が6列についています。六条大麦は寒さに強く、古来、日本で栽培されてきた品種。古くは炒って粉にし「麦こがし」や「はったいこ」として食べていました。

大三角形

土を磨いてゆく 光の
脱臼。走りすぎて
夜。アンドロメダの
吐息。夏の大三角形に
置かれた星々の汗。ベガ
アルタイル デネブ
おりひめ ひこぼし
アルキル基 ボケたばあさんも
感じてくれるような
言葉をさがす
それだけの 旅

(じ150727)

大三角形

「夏の大三角」=写真、wiki=というのは、「はくちょう座α星(デネブ)」「わし座α星(アルタイル)」「こと座α星(ベガ)」の3つの星を結ぶ細長い大きな三角形。ベガとアルタイルは、七夕のおりひめとひこぼしにあたります。

カンポ・デ・クリプターナの形容詞

ぼくが旅人となって
運ばれてくるまで
風車は回っていたのだろうか。
たわしのようなかっこうで赤茶色の地に群れる
濃緑色のオリーブの木々を揺らす風
の力で押し動かされて
怯えることもなく
まわりつづけ 時に
闘いを挑んだラ・マンチャの男を
こともなげに跳ね飛ばして
乾いた平原の夢想を
蹴って掻き消し
ときには豹の歯茎のような夕陽に染まって
歴史のなかの名詞をかたっ端から
取り払い空洞に
葬り去って
形容詞だけのトレモロを奏でていたのか。

言葉が力を失ったのは
風車が止まってしまったから それとも
奇矯な男の生きる隙間が
塞がってしまったからなのか。
とり戻せないならせめて
風に吹かれる形容詞を寄せ集めて
消え去るまでに書きとめておきたい
のだけれど。
願望でしかない未来なんて
夢のなかの目覚め
それとも牢獄での
くじ引き。
白いカンポ・デ・クリプターナでぼくは
烏賊墨に染まった口で牛の尻っぽを
ほおばっている。

(じ150626)

Campo_de_Criptana

「カンポ・デ・クリプターナ」(Campo de Criptana)=写真、wiki=は、スペイン中央部、カスティーリャ=ラ・マンチャ州の自治体。ミゲル・デ・セルバンテスの『ドン・キホーテ』で、主人公が巨人と勘違いして突進した風車群のモデルとされています。

祭り

たんぼ横切り
タンバリンたたく
畦道わたり
カスタネット鳴らす
お天道さまは
シンバルの嵐
村の杜には
蝉時雨
どどんがどんどん
どどんがどん
天神さまに
奉納太鼓

(じ150710)

三社

「祭り」(マツリ)は、マツル、マツラフという動詞で上位のものに奉仕する意味の言葉の名詞形。マツはマチと語源は同じで、見えないものが見える場所、接触しうる場へ来るのを歓待する意味をもつそうです。

円陣

毎回ランナーを出しながら
追加点を許さず粘投する投手に
視線を投げたり眼を伏せたり
いつもの反復運動をベンチの奥で繰り返す
青き北軍の将。僅差のゲームは
浮いては退き尽きては蘇りながら
波乱含みの大詰めに入っている

私はビールに濡れた口蓋で二度三度
枝豆をはじかせている。直球で押し切るか
フォークを落とすのかそれとも
大きく曲がる高速スライダーかなんて
どんでん返して打球の描く放物線は
網膜へと投影されて不透明な
推測だけがネットを泳ぐ

最後の攻防を前にしてマウンドを囲み
円陣が組まれはじめた。
内野も外野も敵も味方も控えも観客も
敬礼の儀仗兵までもがぞろぞろと
北緯三八度線に沿って弧を描く
南軍は赤いカーペットを敷いて
ベンチの奥から北の将を招き入れてゆく

敵 味方 分断の境目に沿って
マウンドを囲んでゆく見果てぬ円陣 
そしてマウンドの真ん中には白球
いや一触即発のスイッチだろうか。
晴れ渡った球場には核の傘
円陣の境界をぴょんと
敵将同士が手をつないで越えてみせる

タブレットの前 口にした枝豆が跳ね
屈曲して歯茎に捕らえられる
北緯三八度のドロー
いかさまには決着はつかないのか。
ふっと枝豆の舌触りをたしかめてみる
闇に溶けきれない音と光の泡沫の舞う
九回の攻防はまだつづいている

(思8月)

円陣

スポーツでよく見られる「円陣」は、心理学でサイキングアップという、戦う緊張状態を作る行為とされます。選手たちの意識を統一するとともに、気持ちを高揚させる心のスイッチの役目も果たしているのだとか。

カオス

つかみどころのな虚空に
虫取り網を掛けてみる
秩序をとどめぬ
脳のカオス
それが宇宙なのだ
老いて
ゆき場の失せた
わが母音
漂う

(じ150715)

虫取り

「カオス」は、宇宙が生成する前の原古に存在したとされる混沌の状態をさすギリシア語。原意は、大きく口を開けた虚の空間を意味したと考えられます。

金太郎飴(5句)

蛇穴を出づ今日もまた職探し

遠きあの遠足の日やゆで卵

金太郎飴の顔して夏来る

ほどほどの雲がお似合ひ鯉幟

合掌の僧しなやかや朝涼し

(り8月)

金太郎飴

「金太郎飴」のような飴細工の起源は、江戸の元禄期にまで遡るようです。大阪では「おかめ」や「福助」の絵柄なのを修行に行って知った職人が、関東らしく足柄山にあやかって名付けられたとか。

和太鼓

散弾銃の雨が地を
打ちはじめた
張りつめた和太鼓の皮を
叩きはじめた
腹の空洞に
鳴りはじめた
まっ白な頭のなか
響きはじめた

(じ150708)

和太鼓

戦国武将が軍の統率をとるため、陣太鼓を用いましたが、「和太鼓」=写真、wiki=には、人間の心臓の鼓動にシンクロすることで、士気を鼓舞する働きがあるという説もあるそうです。

どうとんぼり

すれすれの道
あやふやの涯
どうとんぼり
かぶきちょう
やらずもがな
列車はいつも
どこまでゆき

(じ150716)

道頓堀

「どうとんぼり(道頓堀)」=写真、wiki=は、大坂城築城で功を上げた安井道頓らが水運の便をよくしようと、1612年に開削。工事中の1615年に大坂夏の陣で道頓が戦死したのを哀れんで大坂城主が堀をこう名づけたそうです。

一茶(6句)

囀や四十九日の父の庭

仏壇に餡パン供ふ明易し

鋤簾持つ砂の女に青嵐

新緑や川中島に人馬なし

子雀や一茶頬杖つきて居り

夫送り母は実梅を漬け始む

(岳150523)

一茶

小林一茶(1763-1827)は、1812年、故郷の信濃・柏原へ戻り、52歳で妻帯、子をもうけたが妻子ともに死去。後妻を迎えたが離別するなどしたうえ、類焼の厄にあって土蔵に起臥するうち中風を患って亡くなりました。

黄砂(7句)

小刀で削ぐ鉛筆や春日影

鋸屑の山なだらかに春日影

ずんぐりと体育館や春燈

大陸に万巻の書や黄砂降る

林檎咲く川中島に風もなし

折畳傘畳みをる薄暑かな

かつきりと割箸割れて豆ごはん

(岳150524)

黄砂

「黄砂」は、ゴビ、タクラマカン砂漠、黄土高原などから強風により大気中に舞い上がった黄砂粒子が浮遊しつつ降下する現象。上空 10 m の平均風速が 5 m/s を超えると地面から砂塵が舞い上がり始めるそうです。

沢蟹(5句)

藍染めの戸隠山や夏暖簾

写生にてうつし取らるる谷若葉

沢蟹の動くを待ちて水澄みぬ

紫陽花と群れて眺めし屋形船

香水や一期一会のすれ違ひ

(り150628)

サワガニ

「沢蟹」(サワガニ)=写真、wiki=は、2センチ程度の大きさで、日本唯一の純淡水産のカニ。渓流や水のきれいな小川などにすみ、はさみは多くはの場合右が大きい。卵の中で幼生期を過ごし、孵化しても雌の腹部に抱かれています。

釣人

まだ釣っている
川の流れに足を掬われながら
まだ糸を垂れている
何も釣ったことのない針のついた
竿にしがみ付いて
川の流れに身をまかせつつ
かろうじてまだ立っている
それでも獲物を追っかけている
釣り糸をひとり垂れている
釣れたためしなき竿を
つっ立てている

(じ150711)

pescador

「釣りに六物あり、ひとつ、具わざれば魚得べからず」と、古くから言われているとか。六物(りくぶつ)とは、竿、糸、鉤、オモリ、ウキ、餌、だそうです。

鶴翼(5句)

首塚の山に竹の子顔出せり

草笛や家名手柄はあらざりき

陣触れはお国訛りや雁の列

色鳥も四方ちりぢりに陣太鼓

国造る神鶴翼に天の川

(り160528)

kakuyoku

「鶴翼」とは、鶴が翼を張ったように、中央から左右にゆるやかなV字形に陣翼を延ばして敵兵を包囲しようとする陣形をいいます。