Palabra

日々「言葉」をひろっています

アルキメデス

いくら三角測量を繰り返しても
計りきれない過去未来形に
ダウンロード
している
みちのくの泥んこ相撲
防潮堤のアルキメデス
曙光の国ギリシャびとの
開き直り めぐり旅
つながり 途切れて
とりとめなく 海図

(し150706)

Archimedes

六条大麦(5句)

惑星の瘤の上にて御来光

夢少女六条大麦麦茶干す

酔ひ染まり俯く顔のサングラス

バス停に朝顔市のハートの葉

風鈴や顔もおぼろな隣びと

(り150714)

六条麦茶

大三角形

土を磨いてゆく 光の
脱臼。走りすぎて
夜。アンドロメダの
吐息。夏の大三角形に
置かれた星々の汗。ベガ
アルタイル デネブ
おりひめ ひこぼし
アルキル基 ボケたばあさんも
感じてくれるような
言葉をさがす
それだけの 旅

(じ150727)

大三角形

カンポ・デ・クリプターナの形容詞

ぼくが旅人となって
運ばれてくるまで
風車は回っていたのだろうか。
たわしのようなかっこうで赤茶色の地に群れる
濃緑色のオリーブの木々を揺らす風
の力で押し動かされて
怯えることもなく
まわりつづけ 時に
闘いを挑んだラ・マンチャの男を
こともなげに跳ね飛ばして
乾いた平原の夢想を
蹴って掻き消し
ときには豹の歯茎のような夕陽に染まって
歴史のなかの名詞をかたっ端から
取り払い空洞に
葬り去って
形容詞だけのトレモロを奏でていたのか。

言葉が力を失ったのは
風車が止まってしまったから それとも
奇矯な男の生きる隙間が
塞がってしまったからなのか。
とり戻せないならせめて
風に吹かれる形容詞を寄せ集めて
消え去るまでに書きとめておきたい
のだけれど。
願望でしかない未来なんて
夢のなかの目覚め
それとも牢獄での
くじ引き。
白いカンポ・デ・クリプターナでぼくは
烏賊墨に染まった口で牛の尻っぽを
ほおばっている。

(じ150626)

Campo_de_Criptana
*カンポ・デ・クリプターナ

祭り

たんぼ横切り
タンバリンたたく
畦道わたり
カスタネット鳴らす
お天道さまは
シンバルの嵐
村の杜には
蝉時雨
どどんがどんどん
どどんがどん
天神さまに
奉納太鼓

(じ150710)

三社

円陣

毎回ランナーを出しながら
追加点を許さず粘投する投手に
視線を投げたり眼を伏せたり
いつもの反復運動をベンチの奥で繰り返す
青き北軍の将。僅差のゲームは
浮いては退き尽きては蘇りながら
波乱含みの大詰めに入っている

私はビールに濡れた口蓋で二度三度
枝豆をはじかせている。直球で押し切るか
フォークを落とすのかそれとも
大きく曲がる高速スライダーかなんて
どんでん返して打球の描く放物線は
網膜へと投影されて不透明な
推測だけがネットを泳ぐ

最後の攻防を前にしてマウンドを囲み
円陣が組まれはじめた。
内野も外野も敵も味方も控えも観客も
敬礼の儀仗兵までもがぞろぞろと
北緯三八度線に沿って弧を描く
南軍は赤いカーペットを敷いて
ベンチの奥から北の将を招き入れてゆく

敵 味方 分断の境目に沿って
マウンドを囲んでゆく見果てぬ円陣 
そしてマウンドの真ん中には白球
いや一触即発のスイッチだろうか。
晴れ渡った球場には核の傘
円陣の境界をぴょんと
敵将同士が手をつないで越えてみせる

タブレットの前 口にした枝豆が跳ね
屈曲して歯茎に捕らえられる
北緯三八度のドロー
いかさまには決着はつかないのか。
ふっと枝豆の舌触りをたしかめてみる
闇に溶けきれない音と光の泡沫の舞う
九回の攻防はまだつづいている

(思8月)

円陣

カオス

つかみどころのな虚空に
虫取り網を掛けてみる
秩序をとどめぬ
脳のカオス
それが宇宙なのだ
老いて
ゆき場の失せた
わが母音
漂う

(じ150715)

虫取り

金太郎飴(5句)

蛇穴を出づ今日もまた職探し

遠きあの遠足の日やゆで卵

金太郎飴の顔して夏来る

ほどほどの雲がお似合ひ鯉幟

合掌の僧しなやかや朝涼し

(り8月)

金太郎飴

和太鼓

散弾銃の雨が地を
打ちはじめた
張りつめた和太鼓の皮を
叩きはじめた
腹の空洞に
鳴りはじめた
まっ白な頭のなか
響きはじめた

(じ150708)

和太鼓

どうとんぼり

すれすれの道
あやふやの涯
どうとんぼり
かぶきちょう
やらずもがな
列車はいつも
どこまでゆき

(じ150716)

道頓堀

一茶(6句)

囀や四十九日の父の庭

仏壇に餡パン供ふ明易し

鋤簾持つ砂の女に青嵐

新緑や川中島に人馬なし

子雀や一茶頬杖つきて居り

夫送り母は実梅を漬け始む

(岳150523)

一茶

黄砂(7句)

小刀で削ぐ鉛筆や春日影

鋸屑の山なだらかに春日影

ずんぐりと体育館や春燈

大陸に万巻の書や黄砂降る

林檎咲く川中島に風もなし

折畳傘畳みをる薄暑かな

かつきりと割箸割れて豆ごはん

(岳150524)

黄砂

沢蟹(5句)

藍染めの戸隠山や夏暖簾

写生にてうつし取らるる谷若葉

沢蟹の動くを待ちて水澄みぬ

紫陽花と群れて眺めし屋形船

香水や一期一会のすれ違ひ

(り150628)

サワガニ

釣人

まだ釣っている
川の流れに足を掬われながら
まだ糸を垂れている
何も釣ったことのない針のついた
竿にしがみ付いて
川の流れに身をまかせつつ
かろうじてまだ立っている
それでも獲物を追っかけている
釣り糸をひとり垂れている
釣れたためしなき竿を
つっ立てている

(じ150711)

pescador

鶴翼(5句)

首塚の山に竹の子顔出せり

草笛や家名手柄はあらざりき

陣触れはお国訛りや雁の列

色鳥も四方ちりぢりに陣太鼓

国造る神鶴翼に天の川

(り160528)

kakuyoku

八重垣

だってまだ
意気地悪げな顔のへり
のぞかせながら
どろんと幾重にも
かさなっている
塗り込められた
八重の雲
かいくぐって
 八雲立つ
 出雲八重垣
 つまごみに
 八重垣つくる
 その八重垣を
かいくぐって
ぬけ出てみれば
見えてくるのだろうか

(じ150817)

八重垣神社
*八重垣神社

足掻

悲しみで花が咲くもんか
とガナったところで
起上り小法師じゃあるまいし
転んだらまた起き上ればいい
なんて言ってられる年じゃない
崖っぷち
転んだら足腰折ってもう二度と
立ち上がれなくなるのがオチ
でもまあ寝たままでも
寝返り打てなくなっても
やれることはあるってサ
痛い痛いと呻きながら
悪態吐いて
進めないから
やろうとする
最後の足掻
子規やハイネみたいに
血反吐といっしょに
辛うじての言葉を吐いて

(じ151009)

馬

友は逝った㊦

死ぬことも生きることも知らずに女子大生が
腐食しかけた惨殺死体で見つかった日に
友は逝った
真夏日続きのクソ暑い日に
友は逝った
メニエール病が慢性化したタヌキがもはや化ける気力さえ失ってしまった時代に
友は逝った
ひょっとしたら核弾頭が装着されたミサイルが北から飛んでくるかもしれない空白に日に
友は逝った

ヒトの手で服を着メシを食いかかえられて風呂につかりヒトの足で便所に通いシリを拭き愛を交わしていた
友が逝った
口で淡淡とパソコンを操りドレイにしていた
友が逝った
誰よりも早くニュートリノの微かな質量を感じていたにちがいない友が逝った
もはや帰ってこなくなった伝書鳩の飛行ルートをずっと眺めていた
友は逝った
鳥になった恐竜の滅びを見つめながら
友は逝った

(宇150906)

カミオ
*スーパーカミオカンデ

友は逝った㊤

筋ジストロフィーの
友が逝った
同い年の
友が逝った
いっしょにむかし寝泊まりしていた
友が逝った
オマエなんで障害者になったんだ
と口が滑ると
父にすすめられましてとジョークで流した
友が逝った
五年前から人工心臓をつけていた
友が逝った

ボランティアに支えられて街で暮らしていた
友が逝った
四十二歳で
友が逝った
十二歳で発病してから僕の人生は半分だけと思っていた
友が逝った
電動車いすが足だった
友が逝った
静かに
友は逝った
最後の最後まで生き抜いて
友が逝った
最後の最後まで迷惑をかけ抜いて
友が逝った
僕が知らない間に
友は逝ってしまった。

(宇150903)

車椅子

初夏(5句)

遠き日の遠足の日のゆで卵

粛粛と遠足の列古戦場

初夏や金平糖のいぼ幾つ

金太郎飴の顔して初夏に入る

ほどほどの雲がお似合ひ鯉幟

初夏

鯉のぼり(5句)

深井戸の水汲み上げて五月来る

姨捨にだんだん畑雲の峰

塗り替へし漆喰の蔵鯉のぼり

励まして励まされては柏餅

艶のある信州訛り柿若葉

(り160512)

こいのぼり

麦茶(5句)

遊説の声高らかに海開き

王将の逃げ道さぐる夕立雲

婆ちやんの卓袱台色の麦茶かな

川下り竿の先入る夏の霧

風鈴の声や夫婦は無口にて

(り160712)

麦茶

戸隠(5句)

藍薄き戸隠山や夏暖簾

紫陽花や天水ころと転がれり

緑陰に白球一つ動かざり

朝刊の見出し驚し明け早し

汗拭ふ列の尻尾で電車待つ

(り160613)

戸隠
*戸隠山

蕗の薹(5句)

蒲公英やがたりがたりと水車小屋

表札は亡父のままや落椿

惚けし母からりと揚げり蕗の薹

泣虫も餓鬼大将も端午かな

下町に一陣の風祭笛

(り170512)

ふきのとう
*フキノトウ

ドーパミン

うっと突く
と かかった襞が
捲れ引き攣る
脳細胞でうまれた
パルスが細胞の連結部
シナプスにたどりつく
細胞の隙間に一気に放たれるドーパミン
渦になってひろがってゆく
エ・ク・ス・タ・シ・ー
をさえにかかる
トランスポーター
(アミノ酸が619個連なり細胞膜を12回
貫いてアミを張りドーパミンを捕まえるものも)
ほたまたこれに
ふたをしてゆく
コカインのやつ
溜まる たまる
ドーパミン
快楽中枢をはじき
いく いく いく
月の魔力 地磁気あらし
仕掛けは定かでないけれど
愉悦と境を接して
脳に内在しはじめた
死が。

激しい攻防のさなか
ぼくの第1回目の
脳死判定がはじまる。

(利150829)

ドーパミン

生痕

山のいただきのほうから
霧が降りてくる
扇形に延びて
広まって
隠れてゆく
  身を潜めている
隠されゆく
  足跡
隠してゆく
  生痕

時間は流れているのだろうか
霧が山肌を纏っているあいだも
後ろから前へと
後ろから前へと
林檎はこんなに顔を
赤らめてきているのだから
時間は進んでいるのだろうか
砂防ダムで食い止められたあいだも
濁水を過去の滝つぼへと
流しつづけているのだろうか

(じ150918)

足跡

シャコンヌ

息の絶える前の吹雪の夜
肩書きを捨てて
地下をアジトにするオーケストラに加わった。
摩耗する近未来に向かって
ギターを弾く。
ほんとは独りで無伴奏シャコンヌを
かき鳴らしたいのだけれど
ここでは音の破片はいつでも
拾い集められ回収されて
いつのまにか指揮者の見えない
オーケストラに
はめこまれている。
もしもクオークやレプトンを
とてつもない根気で拾い
集めていったのなら
ぼくはできるのか。
数兆億の塩基対をつなぎ合わせていったなら
ぼくのからだなのか。
それなりの言葉を連ね合わせていったなら
それは詩なのか。
もとめたってうまれ出ず 言葉が
過去の散弾のあとでしかないのなら
人生は棒にふるしか
ないってことなのか。
ナタデココを食いながら
南極の氷の部屋で越冬する意味が
どこにあるのか。

蛇の皮をしゃぶって
ぼくは育ち
猪肉のすき焼きを食いながら大人になった。
大気圏に降りそそぐ
宇宙線シャワーを逃れて中年になり
ロースカツ弁当を食っては
仕事をしている。
開きまくったパソコンのファイルを
画面の「ゴミ箱」に捨てさると
今日は終わる。こんなぼくのなかでも
核は分裂している。
細胞内にできた微小管が
放射状に伸びていって紡錘形の糸巻きになった
かとおもうと染色体は両極に
引き裂かれる。
カット7とかいうタンパクが微小管上を
モノレールカーのように往復して染色体を
引き裂き押しやりばらばらに
分裂分裂分裂
を続けた細胞のにぎりめし
であるぼくのからだはたわごとの細胞分裂で生まれた
孤独の原子核を寄せ集めたにぎりめし
でもあるはずでどっちにしても
ころころっとにぎりめし
果てにはいずれ時空の歪み
ブラックホールにでも
吸い込まれるだけなのか。
シャコンヌの四次元の重奏に
引かれて。

(じ150826)

シャコンヌ

いも

雨で目覚めて
わき出たいまに
開き直りの荒野が
ぽかっと口を開けている
為される前の愛おしい混沌
何でも植えられそうだが
何も育ちそうもないこの土地に
破れかぶれの行き斃れ
暇にまかせてひとつ
いもでも植えてみよう

(じ150818)

いも

群落

靄の立ち込める人の群落を
黒いマスクの女が横切ってゆく
道を裁ち切るテールランプ
そっちにあるはずの街
こっちにいるはずの輩
不動であったはずの立ち位置が
容易に崩れてゆく

黒マスク

やりくり

しょうがないわな
そうなろうとしてそうなっち
まったわけじゃあなし
じゃあどうしたらいいって
どうしようもないのを
がんばりゃなんとか
なんてたわごと
やりくりできりゃ
こんなこといっちゃあいない
あ〜あっていうしかない
あ〜あってやってるあいだに
ながれていくのをまつしかない
あ〜あって

(じ160108)

やりくり

三途川

交差点を曲がりまた歩いて
がやがやっとどこに居るか
わからずにまた独り
なのにみんなとみんなで
みんなのために歩かなくっちゃ
ならなくって迷って
惑い疲れてだから一本道
歩きたくってひとに埋もれ
ひとに惑いひとに迷い惑わされ
ああ槍投げの軌道のような
弧を描き淡々と投げ続けている
一本道 いじめられても
やぶれかぶれで一本道
三途の川まで一本道
歩いて行けるところまで

(じ150820)

三途川

ひとめぼれ

秋刀魚を食う
コメをサカナに
秋刀魚を食う
秋刀魚をサカナに
コメを食う
ジャパナマを飲みながら
秋刀魚と
コメを食う
ひとめぼれをサカナに
妻と秋刀魚を食う
新世代の日本酒ジャパナマを飲みながら
ササニシキをこえる味のひとめぼれを妻と食う

さんさ時雨か萱野の雨か声もせで来てぬれかかる

血統書つきの農林8号
と農林2号
を交配して半世紀前さんさ時雨で
ササシグレが生まれた
当時の花形
福坊主1号より10アールに1俵多く取れた
そして10年
やっぱり毛並みのいいハツニシキ
とササシグレのあいだに生まれた
ササニシキ
のライバル
コシヒカリの子の
ひとめぼれ
を 妻と食う
きょうのはあぶらののりが悪いね
と 秋刀魚をサカナに
ひとめぼれを食う

(利150830)

ひとめぼれ

蟻地獄(5句)

早乙女や安達太良山に雲は無し

明急ぐ光と影の山路踏む

沢蟹はあぶくぽこぽこ隠れ居り

新参の人類来たり蟻地獄

常念も槍も穂高も山開く

(り170613)

アリ地獄

かたつむり(5句)

米蔵に罅ざつくりと雪解川

雪のひま兜被る鬼瓦

林檎咲く大峰山にプチ天守

嫁御さも里人となり田植笠

槍構へ石垣攀ぢるかたつむり

(り160526)

カタツムリ

マサカリ

だからここから
踏み込んで
地塊の奥の奥まで
掘ってゆく
ハンマーを廻すときの
軸心で踏ん張って
踵のくさび打ち込み
マサカリを振り落とす
地上にひと突き
ふた突き
肉が皮膚を突き上げ
飛び出してゆく
ままにまかせて
動きづくり歩きづくり
もう逃げないよ
ツルハシ打ち込む
ぐさりと深く

(じ150804)

まさかり

ムカシ ムカシ

ミギノ ホオニ ジャマッケナ
コブヲ モッテル オジイサン
アルヒ アサカラ ヨイテンキ
ヤマヘ ユキマス シバカリニ
ニワカニ クラク ナリマシタ
カゼガ ゴウゴウ フイテキテ
アメモ ザアザア フリマシタ
ユウダチ ヤムノヲ マツウチニ
ツカレガ デタカ オジイサン
イツカ グッスリ ネムリマス

オヤマハ ハレテ クモモナク
アカルイ ツキヨニ ナリマシタ
オヤ ナンデショウ サワグコエ
ミレバ フシギダ ユメデショカ
オドリノ スキナ オジサン
スグニ トビダシ オドッタラ
コブガ フラフラ ユレルノデ
トテモ オカシイ オモシロイ

   ——ダザイ オトギゾウシ

(じ151119)

おとぎ

ヒバリ

カラスはカラスの
うなり声
ヒバリはヒバリに
さえずって
いつものリズムで
生は奏でる
雨は雨の音はなち
土壌へ落下染みこんで
風は風なり力をふるい
ヒューと一本なげとばす
大地は大地ときしりをあげて
ときに騒めき裂きつくす

人生の稽古場では少女がひとり
声を出さずに泣きわめく

(じ151109)

ヒバリ

信楽の狸

夜桜のトンネル抜けて闇新た

信楽の狸お目覚め春山路

香も色も一重の衣桜餅

鎌倉の大仏纏ふ春時雨

春真昼チキンライスの蕃茄味

(り)

狸

伝説

生きているなら
ボケ頭
どん底どこかで
野垂れ死に
勲章なんぞ
ありゃしない
若くて逝きし
その未練
それでもすっきり
跡形なしに
来る時が来て
惜しまれて
伝説となる
まれもあり

(じ151007)

神話
*インドの伝説の女神カーリー

どんづまり

どんづまり
どうにもこうにも
行き場がなくて
生き場もなくし
犬の遠吠え
くうくうすがって
あきらめようか
畦道まがって
帰ろうったって
どこがある
開きなおるも
どんづまり

(じ151230)

どんづまり

破戒の出家は牛に生るる

股から胴にかけて
四つの肉塊が断ちきられた
すでに右足は天井から
垂れ下がる細引に釣るされている
海綿を持つたひとりの屠手が
しきりとその血を拭う
屠手のかしらが印判を取出し
肉の表皮へ無造作にスタンプする
引取りに来た牛肉屋の丁稚が
アンペラを敷いた箱を車の上に載せて威勢よく
小屋の中へとがらがら引きこんでゆく

肉は大きなはかりにかけられる
「十二貫五百」「十一貫七百」
屠手の一人が目方を読み上げる
牛肉屋の亭主は鉛筆を舐なめ手帳へ書き留める
あるものは残った臓腑をかたづけにかかり
あるものは桶に足を突込み血潮を洗ひ落す
片ももはいまだ吊されたまま
黄色い脂身が日の光をたっぷり吸っている

(島崎藤村『破戒』第10章の一部を改変して作成)

(じ150827)

破戒

コーラス

もう歌えない
一粒のメロディも持ち合わせちゃいない
もう歌わない
流されずに黙って留まっている
もう歌わずに
じっと流されないようにしているだけ
もう歌はない
コーラスの輪はずっと向こうにいってしまって
もう歌でない
お仕着せだらけの蜘蛛の巣だらけ
もう歌わなくても
生きていけそうだから

(じ150908)

コーラス

雲切れ

雲の切れはしで
月が化粧をはじめた
雲の隙間から
星がちょこり瞬きだした
雲の重なりをぬって
雷さんも出番をうかがっている
雲のまにまに漂って
祈りつづけるひと ひと ひと
雲のずっと向こうなら
きっとすべてがお見通し
雲の元締めに聞いてみようか
認知症のうちの母ちゃん
どこにいるんだって

(じ150913)

kumo

ラジオ体操

ふつふつと
脳の圧力容器から
沸き出してくる
記憶の蒸気
臨界の手前
タービンを回す
こともなく
霧散して
消えさる
拠って生きる
生かされて
はっと
鳥の声に醒める
認知症高齢者グループホームで
ラジオ体操がはじまる

(じ150807)

ラジオ

博士

記憶のタンクに穴が開き
注いでも注いでも
たまっていかない
『博士の愛した数式』の
博士のように
80分でも持ってくれれば
いいのだけれど
けろけろっと
口に出したとたんに
漏れていって
漏れてることなんて
知ろうはずもなく
ぽかあっと何も
気にならず
いつも新しい空を
見つめていられる

(じ150819)

博士

訥訥

雲は動いて雨は落ち
河は濁濁混ざり合い
風は騒騒吹きまくる
木は訥訥へし曲がり
山は黙黙山のまんま

(じ150910)

訥訥

スイッチ

できることなら
芭蕉になって
旅に出てみたい
叫び疲れて
開き直って
ちょっとした境地に
たどりついて
歩き出したい
くぐっておくべき門を
くぐらず来たから
歩いておくべき道
通らず来たから
戻れるところから
行き直しておきたい
スイッチ入れたら
止まらないところから
最後の人生
貫いてみたい

(じ150814)

スイッチ

踏切

たれかのようには生きられず
たれかのようにと生きもせず
たれかのようには死ねられず
たれかのようにと死にもせず
この踏切は下がったまんまで
いつまでたっても開けはせぬ
時を待つのかひき揚げるのか
それともこじ開け渡ろうか

(じ151222)

踏切

三日月

ひっかけたら
すぱんと切れそうな三日月が
水面にどっかり横向きにすわっている
衣紋掛をぶら下げておきたくなるような
スマートな服など持ちあわせていない
退屈男がよこ顔をみつめている
あんなに鋭い鎌で
すぱすぱ刈っていったなら
そこそこには出世できていたのかと
ちょっぴり向こう傷が気になりなりながら
夜の釣り堀で
落着き払った三日月に
黙って糸を垂れている

(じ151017)

三日月

右へとび
左へとんで
翼ひろげるふりをして
逃げまわっている
挑んでみせるふりをして
じゃれついている
そんなに翼
ひろげなくても
いつもより
1ミリのばして
とんでみて
それがいいとか
わるいとか
好きだ嫌いだ
なんだとかっ
てのはずっと
あとのまつり

手をのばさなくても
つかめるもの
じゃあないものを
ちょっぴり
手をのばして
もとめていたら

(じ150926)

翼