Palabra

日々「言葉」をひろっています

次元

旅からの帰りに
宇宙の亀裂に
落っこちてしまった
おそらく別の次元の
溝のなかに来てしまった
もう浮き上がることはない
だれに何を言われても
しょせん言葉は通じはしない
清清として梯子をつなぎ
未来も過去もない
次元の壁にへばり付いている
底には掃き溜めが見える
雨水もいくばかりか
浸入しているようだ
方向のない掃き溜めの上で
船頭が櫂をこいでいる
ときおり備中ぐわで
まとわりついた藻を
払いのけながら

(じ151226)

次元

ふつう宇宙は4次元時空と考えられていますが、最新のひも理論によると11次元の構造になっているのだとか。折りたたまれている「別の次元」が、いろいろにあることになります。

断末魔

ワニの口をした雲ののどの
奥の奥のほうから
日暮れの断末魔の陽光が
重奏低音のうなりとともに
押し出されてくる
雲のソフトクリームに
未練があるんだ
きっと
〈さいごに一杯〉と
おちょこの形を指でこさえて逝った
親父みたいに

妙義山の岸壁のあいだに
陽は落ちてゆく

(じ151221)

断末魔

「妙義山」は群馬県南西部、上毛三山の一つ。最高峰の金洞山(1104m)と金鶏山、白雲山の3峰に分かれています。安山岩と凝灰角レキ岩からなり、浸食により屏風岩、石門、大砲岩などの奇岩怪峰がみられます。 

昇華

白首の練馬大根を
すっと鉛直にひっぱって
地球の小骨を抜いてゆく
秋刀魚の骨のように
硬直したプライドを
解いてゆく
独りよがりの煙突から
いつのまにか煙が
のぼっている
少しだけ透明に
近づいて空に
融けてゆく

(じ151215)

昇華

練馬で大根作りが盛んになったのは、火山灰が厚く積もった生産に適した赤土の台地だったこと、それに大消費地、江戸まで15キロほどで日帰りで出荷ができた。それから、江戸で出た大量の人糞(下肥)が大根栽培のよい肥料となったことがあげられるそうです。 

雀一羽

熟柿をつつく
雀一羽
いたずらっ子
の後ろめたさ
表皮を裂いて
傷のあと
擦りむいて
膝小僧
剥き出して
晩秋の枝
蹴とばして
ぐぢゅ
雀一羽

(じ151228) 

雀

この時節、「雀」は稲に対する食害を起こしますが、稲にとっての害虫も食べるので、米農家にとっては益鳥の面もあります。「いそがしや昼飯頃の親雀」(子規) 

小雨背に一本の鍬で耕してゆく
なにも植わっていない痩せた畑を
老いたしろうと農夫が
いまだ植える作物(もの)決めかねて
春まだ遠い耕地
凍った荒い土くれに
慣れない腰つきで鍬を
降り下ろしてゆく
生きものの臭いない地上に
一本しかない鍬を入れてゆく
ばけの皮はぎ落とされ
にげまどって握った一本
曲がりくねりかろうじて
とどめゆく一筋に
鍬を振り下ろしてゆく

(じ160127)

鍬

「鍬」は、かねヘンに秋。「使う鍬は光る」、けれど「針で掘って鍬で埋める」(苦労してコツコツ作り上げたものをいっぺんに失くしてしまう)とも言われます。 

ゴジラ

そこにどれだけの影が
生えているのか
雪のパウダーが纏いはじめた
寂寂たる山山を
高圧電線が横切ってゆく
いつか現れ
なぎ倒してゆく

(じ160122)

ゴジラ

1954(昭和29)年の東宝映画でデビューした「ゴジラ」は、太古から海底で眠っていたが、水爆実験によって目覚めました。ゴリラとクジラの合成語だそうです。 

仁王

善光寺への参道を
上ってゆく
下り坂の人生を
上ってゆく
いつもの仁王が
剣に手をかけ
睨んでいる
雨が霙に
変わろうとしている

(じ160116)

仁王

善光寺の仁王門は宝暦2(1752)年に建立されましたが、善光寺大地震などで2二度焼失し、現在のものは高村光雲・米原雲海によって大正7(1918)年に再建されました。 

みかん

時間の波の谷間に
夢が一粒ずつ垂れてゆく
時計の針がワナに
はまってゆく
終業のチャイムが鳴っている
工場からずらずらと
ひとの列が零れている
いつ寄せていつか引いて
昼と夜が交配している
ずっとここにあるというところ
漕いでゆくしかないところ
この藪を この海を
とどかぬ言葉に手を伸ばせ
みかんが一個そこにある

(じ151223)

みかん

「みかん」というと通常はウンシュウミカンを指します。鹿児島県・長島にあった古木が昭和11年に樹齢約300年と推定されたことなどから、400年ほど前、中国から鹿児島に伝わった柑橘の種から発生したと考えられています。

幹の動脈から分かれた
枯木の枝が空にはえ出して
もやもや病の血管のように
細くよるべなさげに
ハチの巣をつくっている

(じ160304)

冬

「もやもや病」は、脳の動脈が詰まり、それを補う血管が発達したも病気で、脳血管造影検査で脳底部にもやもやとした煙のような像が見られます。 

玉虫色

折れやすい深い秋の日の先に
力なくきょうも
世界は広がっている
まだ地平は
見えていない
だからまったくの失敗人生だったと
いたところで。
玉虫色の恋のまま
見るものも見ず
聴くものも聴かずの
ひとりよがり

(じ160207)

玉虫

タマムシ=写真=の翅 (はね) のように、光の当たる角度によって緑色や紫色など色彩が変化して見えます。そうした染め色や織り色が「玉虫色」です。 

異動

荷をほどいて
もって来たもの
みんな並べてみる
捨ててきたもの
埋めてゆく
後悔を蹴散らしゆく

携えてきた本
棚に並べ替えてゆく
途ぎれ途ぎれ
つながらなくなった文脈
追っかけてみる

置き去りにしてきたノート
めくってみる
拠り所たよりないここ
でもここから書き継いで
ゆくよりない

(じ160324)

異動

一般家庭に現代の本棚が普及するようになったのは大正時代後半に入ってからで、関東大震災を契機に広がったといわれているそうです。 

コッペパン

拳をテーブル叩きつけ
拳の痛みに喘いでいる
生き恥さらしまた生きて
そこまでいけなくなったって
そこからいくしかなくなって
漏れてばかりで満たそうと
満ちる夢想の漏れ哀れ
じゃんだらじゃんと唐辛子
ちょっといかしたコッペパン
無縁の上り有縁の下り
坂の向こうは九十九折れ
かけるかける
呆けか軽みか婆さんが
空を見つめて駆け巡る

(じ160107)

コッペパン

「コッペ」は、紡錘形で中高にふくらんだパン。語源は「切った」の意のフランス語 coupé とも、「山形」の意のドイツ語 Koppe ともいわれます。

ゆで卵

かまぼこ型の体育館が
薄い皮膜でおわれた
空洞を内包して
明りを点している
微かに空気を
膨張させて
跳び箱がバスケットの
リングがはまっている
ああ あのとき
笛が鳴り 声はじけ
握り飯に ゆで卵

(じ151202)

ゆで卵

「ゆで卵」は沸騰させたお湯で、6分前後で半熟、10分前後で固ゆで卵になります。70℃前後で数十分ゆでると、白身は固まらず黄身だけが固まる、いわゆる“温泉卵”ができます。

灯台

灯一点にむけ櫂をこぐ
黒い海
灯一点のほう祈りつ
黒い海
灯一点たよりに
黒い海
灯一点すぎて年きたる
黒い海
灯一点きえても
黒い海
灯一点いまだ信じて
黒い海

(じ160111)

灯台

「灯台」は、古く紀元前280年ころ、エジプト・アレクサンドリアの港口のファロス島に建設されました。高さ約60m(一説では110m)の石積塔で、塔の頂部の台で枯草や木に樹脂を混ぜたものを毎夜燃やしたそうです。

茶番

一身上の都合で
歩き出していた
不埒な輩が
足をたたんで
畳に座り
神妙に
祈っている
つぶやいている
あしたを待って
じゃあそこで
おっぺけぺっと
またやっちまっった
いつもの茶番
それでも
とりあえずは畳みかけて
階段を一つ上ったから
ひそかにポンと
いつもの上に飛んでみよっ

(じ160103)

茶番

江戸時代の歌舞伎劇場の楽屋で、大部屋の下級役者の仕事であった茶汲み役を「茶番」といいました。当番になるといろいろ工夫を凝らして余興をしてみせる風習ができ、これが吉原など民間にも広まりました。 

火見櫓

ずいぶんもたついていたけれど
地球の零れ水が雲から
しぼり出されてくる
雨であるのか
雪になるのか
毬栗頭の小ぞうがひとり
黙って
火見櫓から眺めている

(じ160117)

火見櫓

火事の見張りをする「火見櫓(やぐら)」が最初につくられたのは明暦の大火の翌年(1658)のこと。幕府直属の定火消の屋敷に高さ3丈(約9メートル)のものが建てられ、江戸期には十か町に一か所程度建てられました。明治以降も残りましたが、建物が高層化した現代はあまり使われていません。 

煙突

白首の練馬大根を
すっと鉛直にひっぱって
背骨をぬいてゆく
秋刀魚の骨のように
硬直したプライドを
剥いでゆく
独りよがりの煙突から
いつのまにか煙が
のぼってゆく
少しだけ透明に
近づいて空に
融けてゆく

(じ151215)

煙突

煙突からの排出ガスは、ガスそのものの熱による浮力、煙突から排出されるときの吐出速度による運動量、外気の風速や気温などによって一定の高さまで上昇した後、風下側に流れていきます。

刈田道(5句)

魚屋も八百屋も釣瓶落しかな

柿吊す茅葺屋根や雨宿り

秋深む字引に言葉拾ひをり

犀川に一番星や芒散る

影深く降ろし息つく刈田道

(じ161114)

刈田

刈田道は、稲を刈りとった田を通る道。畦では稲が干され、収穫を終えたあとのほっとした田園風景がありました。 

チョコレート

おそらくこの地は
一枚のチョコレートで
出来あがっている
バリッとひび割れ
引き裂かれ歪となって
卑弥呼も聖徳太子も
アインシュタインも
私とさして変わらぬ
遺伝子の設計図を
細胞に抱え込み
一枚のチョコレートを
渡っていった
生きているから
生まれくる
雲の影さぐりつづけて
ひび割れの味
力を込めて
星くっきりと

(じ160114)


「チョコレート」の原料、カカオの木の原産地は中南米で、メキシコ先住民はこの豆を「神からの賜物」とよんで、飲み物や薬、さらには貨幣として利用していたそうです。

枯葉

頭のなか塗りたくっても
白いカンバスのまんま
海馬から乱れ落ちた枯葉
掻き集めても
言葉の形象なし
きゅっと寒気が
寄せてきたというのに
婆さんの脳内宇宙は
相変わらずの
渾沌
並べようにも
滑り落ちる

(じ160113)


「渾沌」(こんとん)には、混沌(カオス)を司る中国神話の怪物の意もあります。犬のような姿で長い毛が生え、目があるが見えず、耳もあるが聞こえず。脚はあるがグルグル回っているだけで前に進めず、空を見ては笑っていたとか。 

橅占地(5句)

曼殊沙華老母虚ろな眼の在りか

長き夜やゴッホ自画像描き居り

修験者の山のふところ蕎麦の花

したたかに生きる強さや橅占地

稲すずめ散らし手を振る街宣車

(り)

ブナシメジ

生きた木の根に生えるホンシメジと違い、ブナシメジ(橅占地)=写真、wiki=は、倒木や枯れ木など死んだ木から栄養を取って成長します。 

かなとこ雲

なにかをなすなんてことよりも
いきたいままにそこに在る
ってことのほうがずっと
生きているってことなんでしょう。
海に沈んで海月となって
山に登ってかなとこ雲をおよいで

(じ160209)

かなとこ

「かなとこ雲」=写真、wiki=は、発達した積乱雲の衰弱期に見られる雲。積乱雲の頭部がかなとこ(鉄床)のような形をしているためこう呼ばれます。雲頂は発達して圏界面付近まで達し、付近の強い風のため頂上付近の雲が水平に流されてかなとこ型になります。 

地道

騎馬の群れが裂けて
通り過ぎてゆく
地にひづめ
響く 響く
乾いた地道
徒労の荒地
報われることとは
無縁の砂漠
納豆巻に巻かれるように
頑なな地を渡ってゆく
待ち人のない
道の果て
続いているだけの地道の地

(じ160124)

地道

たとえば城攻めのとき城内に通じさせるためのトンネルを「地道」と呼びます。また、大地に備わった道理、天道のことも意味します。

カシオペア

さっきまで生きていたくないと
わめいていた惚けバアさまが
さらっと忘れて
黙りこみ
秋の天の川に目を遣り
ニヤリ
ほおのしわを緩ませた。
きょうのカシオペアは
妙に遠い
そして
硬そうである

(じ151227)

カシオペア

夏のにぎやかさとかわり、秋の空にはあまり明るい星は見あたりません。そんな中で、天の川にくっきりとWの字を描くカシオペアはひときわ目立って見えます。 

稲雀

解析概論を読みたくなって
屋根裏の本棚を漁っている
ギターを弾きたくなって
お茶の水からマドリードの
プエルタ・デル・ソルへと
誘われてゆく
秋の風が頬を切る
稲雀の声が妙に騒がしい
カタルーニャは独立寸前なんだって

(じ160325)

稲雀

スペイン北東部のカタルーニャ州で10月1日、独立の是非を問う住民投票が行われ、投票率が4割にとどまりながらも賛成が9割に達したといいます。 

水鳥

川が流れるのを
岸辺で眺めつづけている
時間が過ぎてゆく
ままにまかせながら
これまで流れていたのに
これまで時間とともに
あったような気がしていたのに
揺れながら
とどまったままでいる
ぱちんと弾けるように
水鳥が飛び立った

(じ160126)

水鳥

鳥は陸鳥と水鳥に大きく分けられます。水鳥は、川、水田、湖沼、湿原、海岸などに棲息し、水かき、水辺の歩行に関連した長い脚、潜水できる小さな翼などが特徴。「水鳥や百姓ながら弓矢取」(蕪村)。 

宿題

わけを打ち明けられてみれば
そこにあるのは箱庭の
吹きっさらし
はるかむかしに向きあった
餓鬼大将たちの古戦場
みのるに間のある林檎園
そんなことにも気づかなかった
ただの空

渦に巻かれてここに在るのは
子どものころの学級委員の
宿題を果たすためなのか

(じ160308)

宿題

「宿題」は、もともと即題、席題の反対の概念で、前もって与えておく問題、解決されずに残された課題を意味します。

賽の河原

碧山囲み
雪線飾り
地は在る
臨終の日
流れゆく
賽の河筋
明け暮れ
上り下る
つま先に
辿り着く
言葉無し

(じ160109)

賽の河原

「賽の河原」は、子どもが死後行き、苦を受けると信じられた冥土の三途の川のほとりの河原のこと。子どもは石を積み塔を作ろうとしますが、大鬼がきてこれをこわし、地蔵菩薩が子どもを救います。

シロアリ

人間が多すぎるんだ
いつからこんなに
繁殖している
シロアリみたいに
だれがこんなに
連れて来た
どこからどっち
選り取り見取り
エー格好シーだけど
一方通行に

(じ160201)

シロアリ

「シロアリ」は、社会生活をする食材性の小形昆虫で、熱帯地域を中心に約2100種、日本には15種が生息します。形はアリに似ていますが、系統的にはゴキブリに近縁。祖先は古生代石炭紀のころまでたどることができ、長い期間に渡り地球で最も繁栄してきた生物の一つといえそうです。 

マリンバ

もち上げるからだ
もち上がるいのち
生まれあれば
支えられ
重さとなって
計られ 
抜けおちて
いのち
雲になれずに
もちこまれた
いのちという
やっかいな重み
計られはじめてから
晒されているだけの重み

ああマリンバのざざめきが
ぶなの森の樹冠から
いっせいに降ってくる

(じ160318)

マリンバ

「マリンバ」は、アフリカ起源で、ラテンアメリカさらにアメリカに持ち込まれて近代的に改良された木琴。語源は、アフリカのバントゥー諸語の複数を示す接頭辞「マ」と「平らな物体」を意味する「リンバ」を組み合わせたものだそうです。

クラーク(15句)

うめきうめきいま流氷は接岸す

友逝くや根釧原野揚雲雀

蒲公英や屯田兵の村に入る

クラークの指さす彼方柳絮舞ふ

しんしんとしんしんと沁む新樹光

軽鴨はでんぐりがへし蓮開く

秋麗ポプラ並木の影太し

けちけちとせずに積りぬ黄落期

さくさくとときは刻めり枯葉道

ほつとけや散乱反射風花す

ひとしづく雨ひとひらの雪と化す

鐘響く雪に音なし時計台

窓をぶつちんちん電車玉霰

原色の屋根に波なす氷柱かな

暮れ初むる街透き徹り雪まつり

(り170528)

クラーク

「クラーク」(William Smith Clark、1826-1886)は、札幌農学校(北海道大学の前身)の創設者。在職1年、1877年4月帰国にあたり、“Boys, be ambitious for the attainment of all that a man ought to be.”(青年よ、人間の本分をなすべく大望を抱け)の名言を残したことは有名です。

蕎麦打

遠くへ離れてしまったのか
寄らず離れてきたのか
取り残されてしまったのか
ひとり居るだけなのか
いまに置かれた
ちっぽけな自在
揺り動かされ
宙ぶらりんの
存在論をぶっている
蕎麦を打っている
ただタンタンと
蕎麦を打っている

(じ151115)

蕎麦打

「蕎麦」は、古くは粒のまま粥にし、あるいは蕎麦掻きや蕎麦焼きなどとして食べていました。いまのようなそば切りの始まりは天正年間(1573~1592)。一説によれば、江戸初期に朝鮮半島から渡ってきた僧の元珍が、南都の東大寺にきて、つなぎに小麦粉を加えることを教えたのが始まりだとか。

川中島

秋の陽ざしが
束になって
刈田つらなる
川中島の
三角地帯を
射ている
死んでいった
生き残っていた
ものたち
見下ろしている
戸隠連山
遠きアルプスの
深き雪渓

犀川を渡っている
霧に隠るる蹄の音
はるかに聞きながら
渡っている

川中島

(じ151126)

武田信玄と上杉謙信が戦った「川中島」は、合戦当時は千曲川と犀川の両河川の河川敷や原野でしたが、いまは水田やリンゴ畑の農村部です。昔から桃づくりも盛んで、白桃発祥の地の一つとしても知られています。

ずんぐり大きな尻をした
柿がぶら下がっていた
梯子で登って屋根瓦
むしって齧って
空を見た
夢を砕いて
明日はまた来た
それでもどっしり
たわわな柿を
あれは青鬼だったっけ
いいや赤鬼だったっけ
食らいに山を下りてきて
変わっちまったんだよな
何もかもが

(じ151121)

カキ

「柿が色づくと医者が青くなる」という諺があります。柿はビタミンCが豊富で、万病のもとといわれるかぜを予防するからなのだそうです。

はずみ

生きたはずみ
死んだはずみ
生きているはずみ

死んでしまったはずみ
水虫になったはずみ
癌になったはずみ

失職したはずみ
手にしてしまったはずみ
零れていったはずみ

車にあたったはずみ
黒海でおぼれたはずみ
砂漠に降り立ったはずみ

木偶坊と呼ばれたはずみ
出来物のできないはずみ
川に流れてしまったはずみ

たまたま刺されたはずみ
生き恥さらしたはずみ
溺れかかったはずみ

執着しつくしたはずみ
横断歩道を渡ったはずみ
違法駐車のはずみ

エレベーターが止まったはずみ
貝柱にぶっつかったはずみ
波がやってきたはずみ

風が吹いたと思ったはずみ
脱け出していったはずみ
戻れなくなってしまったはずみ

(じ150922)

はずみ

はずみに、はずんで、衆院解散。新党が生まれ、21年つづいた政党があっという間に消えました。 

流れ星
さっきまで
見られてばかり
だったのに
流れて落ちる人の星
運は離れて目星は立たず
金星あつめる老獪な
力士のちょっぴり
薄い髷

(じ160227)

髷

力士の「髷」は、1871(明治4)年に断髪廃刀令が実施されたとき、相撲界にも断髪を当てはめようとしましたが、明治政府長官の中に好角家が多く、力士風俗として結髪を許すこととになっていまもつづいているのだそうです。

長き夜(5句)

鰯雲弾きて飛ばす高笑ひ

黄金の里に新参稲雀

新蕎麦や笊にはじける柳腰

左遷さる杜甫の長き詩長き夜

水澄みて見えざるものを眺めをり

(り151012)

長き夜

「杜甫」(712-770)=写真、wiki=は、若いころ科挙に落第。40歳を過ぎて仕官しましたが、左遷されたため官を捨て、家族を連れて甘粛・四川を放浪、湖南で病没しました。 

手帳

もとめないこと
愚直であること
淡々とつづけていること
いつも手帳をぶらさげて
歩いていること
書くのをやめないでいること
見つめてみること
耳を傾けていること
あきらめ切ること
未練なくきっぱりと
のこりを行くだけのこと

(じ160220)

手帳

宮沢賢治は、首からつるしたシャープペンシルを取り出して、いつも手帳にメモをしていたそうです。

釣瓶落し(5句)

魚屋も八百屋も釣瓶落しかな

柿吊す茅葺屋根や雨宿り

秋深む字引に言葉拾ひをり

犀川に一番星や芒散る

影深く降ろし息つく刈田道

(り161114)
釣瓶落とし

「釣瓶」は、水を汲むために竿や縄の先につけて井戸の中におろす桶。釣瓶が井戸に滑り落ちるように、秋の日は一気に日があっという間に暮れていきます。

浦島太郎の孤独

さして深刻でもない孤独が
ぶつかりあっている
不慣れな選択退職者の孤独
不慣れな痴ほう老人の孤独
虫眼鏡で覗きつづけていたら
いつのまにかサイクロンに
呑み込まれたまんま
時かけぬけて浦島太郎の孤独
やっと遠くから望遠鏡で
眺められるような心境
になった気がしていたのに

(じ160208)

浦島太郎

相撲の番付表の下の方に小さく書かれるところから、序の口の力士のことも「虫眼鏡」といいます。 

籠城

籠城のようなもんだよ
ハラを決めたんだから
あれこれ迷ったところで
出て行って勝算
あるわけでもなし
それで進むしかない
飢えて尽きるまで

(じ160323)

籠城

衆議院の解散が確実になって来ました。古巣に籠城して議席を守り切るか、打って出て活路を見いだすか。決断を迫られている議員さんもたくさんいるようです。 

じぶん

じぶんの顔写真を見ると
嫌悪を感じるようになったのは
いつのころからだろうか
髪が薄くなりかけてか
しわがしみが不可逆的に
刻まれていくのに観念
しはじめたころからか
ゴッホはどうして自画像を
描き続けていたのだろう
鏡に映った左右逆の
じぶんを

(じ160123)

ゴッホ

デカルトの『方法序説』にある有名な「我思う、故に我在り」(Cogito, ergo sum.)という言葉のとおり、あらゆる存在が疑えても、そう考えている自己の存在だけは疑うことができません。

錘にかけ

ツラの皮が
剥がれてゆく
脱力と諦念
光が沈み
檻のなかの囚人
のように
布団を覆ってゆく
光を錘 (つむ) にかけ
縒(よ)りをかけ
糸にする
灯りが見えはじめた
足もとの塵を
照らしてゆく
さあ
ゆこう

(じ151118)

紡ぐ

この繊維を糸にする紡績の「紡」は撚り合わせることで、「績」は引き伸ばすこと。撚りをかけることで、糸の太さを維持するとともに丸みをつけ、弾力、伸度、収縮性、柔軟性、光沢を与えるといった効果があります。 

コスモス(5句)

秋桜や風の濁りも気にとめず

懐の寂しさつげるちちろ虫

しぶ柿やいがぐり頭にきび面

案山子にもボロ着ふだん着一張羅

迷ひ入る糺ノ森や照紅葉

(り161013)

コスモス

「秋桜」(コスモス)の語源「コスモ」(cosmo)は、ギリシャ語で「宇宙の秩序」を意味するそうです。熱帯アメリカ原産で、メキシコからスペインを経て明治20年ころ渡来したとされています。 

もうちっと

しっぽを巻いて帰ってきた
リスにトカゲに
アルマジロ
日常という
だらり伸ばして
ばかりの罰か
戻るも行くも
ヘビはとぐろを
巻いたまま
それでももうちっと
がんばって

(じ151207)

アルマジロ

「アルマジロ」=写真、wiki=は、夜行性で前足に長く鋭い爪があり、昆虫類やカタツムリ、ミミズ、ヘビなどを食べます。敵に襲われると、手足を引っ込め、硬い甲羅で身を守ります。地下に穴を掘って巣を作り、暑い日は巣穴で眠って過ごします。 

蜂雀

みすゞ飴を
舌で絡めながら
甘さをちょっと齧り
弾力を確かめてみる
蜂雀が頭のなか
ホバリングを繰り返しながら
彩を振り撒きはじめた

(じ160224)

ハチドリ

「蜂雀」(はちすずめ)は、ハチドリ=写真、wiki=の異名。主に熱帯地方にすみ、鳥類中最も小形で体重2~9グラム程度。ハチのように高速で羽ばたき、空中に停止して花の蜜を吸います。 

ヤコブの梯子

らせんの階段をのぼっていく
らせんの階段をおりていく
らせん階段でおっかけて
らせん階段でねらわれた

二重のらせんにシェーンベルクの
無調音が滞留している
二重のらせんから脱皮しようと
もがいている
二重らせんでグスタフ・クリムトの
情事がつづいている
二重らせんの芯が
抜かれてゆく

ヤコブの梯子からぶらさがったらせんが
人工衛星にもうすこしでひっかかる
ひっかかってゆく

(じ160102)

ヤコブ

「ヤコブの梯子」は、双子の兄と仲違いして父のもとを去ったヤコブが夢で見た天まで届く梯子。天使たちが上り下りし、その頂きには神が立っていました。また、シェーンベルクがこの題のオラトリオを作っています。無調音楽から12音音楽への移行期の作品で、1917~22年に作曲したものの中断、1944年に再び作曲を手掛けたが未完に終わり、後に弟子が補筆完成しています。 

魔女

ほうきを股にはさんで
村八分になった変人が飛んでゆく
ほうきにしがみついて
ぺちゃくちゃお喋り悪女が跳ねている
ほうきにぶらさがって
殺人容疑のお産婆賢女が浮かんでいる
ほうきに乗っかって
虐げられた魔女が逃れてゆく
大衆という磁場の魔力から
自由になりたくて
飛んでいる

(じ151103)

魔女

西洋の悪魔は神に敵対し、絶対的な悪ととらえられています。その悪魔と契約を結ぶ魔女はキリスト教を冒瀆し当然処刑されるべきものと考えられ、産婆術や薬草の知識などをもち予言や占いも行う女性が、魔女だとして徹底的に迫害されました。 

ホメロス(5句)

古本の愛しきにほひ秋蚊鳴く

爽涼やホメロス叙事詩読了す

まだ片目だけの達磨や秋気満つ

軍馬なき川中島や稲架襖

ぶら下げてコンビニ袋秋旱

(り12)

ホメロス

「ホメロス」=写真、wiki=は、前8世紀後半ごろのギリシャの詩人。小アジア西岸地域に生まれ、盲目の吟遊詩人として各地を遍歴したと伝わります。二大英雄叙事詩「イリアス」「オデュッセイア」の作者で、古来最高の詩人とたたえられています。

糸取

らせんをほどく
二重に絡まった凹凸から
らせんをピュッと
ほどいてゆく
まとわりつく微細な繊維片を
よってゆく
茅葺き屋根の
天井裏には糸をとる
蚕棚があった
おばあちゃんちが
あった

(じ160120)

糸取

蚕の繭は、煮ると繊維がほぐれて糸が採りやすくなります。最近は見ることがほとんどなくなりましたが、「糸取」は、煮立った鍋の中の繭から、何本かの糸をざぐり機で手繰って、糸車に巻き取るの作業のことをいいます。