Palabra

日々「言葉」をひろっています

鬼瓦(5句)

せせらぎや鞭声粛粛猫柳

温む水アキレス腱を伸ばしをり

雪融けて面構へよし鬼瓦

弘徽殿の夜の深みや雛灯り

船を漕ぐ惚けし母や猫さかる

(り170314)

鬼瓦

無心

やっと覚悟を固め
ゆっくりと
無心に
動きはじめた。
それまでに
人生のいいとこの
大半を費やしてしまった。
まあ
しょうねえな。

(じ150828)

無心

姿勢

ちょっとやそっと
つついたくらいでは
かおをだしても
すぐにひっこめてしまう
もう二どとおめにかかれない
かもしれない
生けどりにするには
根こそぎもって
いかなきゃだけど
そんな力はありゃしないよ
ちょっとやそっと
やったところで
その気になっただけで
けっきょくなにも見えやしない
それでもそっちを向いたまま
見つづけている
それしかないんだ

(じ151101)

姿勢

炭木

じぶんの力
精いっぱいすることだな
そう
自由ってのは
じいちゃんはそう言って
炭木を三束背負って山を降りていった
ばあちゃんの炭木は二束
並んで山を下った
結婚して五十五年
生活はふたり
人生もふたり

(不141221)

炭木

信繁

なにもかもがやっと
気にならなくなって
なにもかもからやっと
自由になれそう
雪が雨に変わっていくのを
ただずっと見つめている
故郷の英雄真田信繁が
本陣めがけて突っ込んでゆく
雄姿をずっと眺めている

(じ160131)

真田信繁

蓮華(7首)

人生最後の宿りとなるか引っ越し覚悟きめ本を捨て服を捨てて

風呂もトイレも最新式マンション住居というよりホテルのにおい

足かせあってこその人生と割り切りサラリーマンのローンライフ

きっかけをつくりたい大切にしたい追いまくられの一区切り

新しく備え付けた本棚並べる本の順迷いつつ僕のちっぽけな世界

七年住んだアパート出てまた鳥籠のなかでも浮き浮きっと始まる

清浄巨大な蓮華の中にあるというこの世つつましく浮かぶ暮らし

(未2003.1 150223)

蓮華

交差点

どこかの変曲点で
それなりのまがり方をしてきた。
記憶を手繰り寄せて
ちょうどあの曲率あたりを
探ってみる。
辿っていたはずの道端にはもうわたしの足跡はなく
迷ったあげくに渡った交差点では
信号が無造作に点滅を続けている。
ただ そこに
覗き忘れたふりをして通り過ぎてきた小さな穴がいくつか。
ほじ開けて顔を出してたら
どんな景色が見えたのだろうか。

(恐150130)

交差

鬼やらひ(5句)

寒暁や観音さんもお目覚めか

折畳み傘の骨接ぎ玉霰

数珠繋ぎ光欲しがる凍豆腐

燈台や流氷ただいま接岸す

緑鬼黄鬼も交じり鬼やらひ

(り160212)

節分

アキレス腱

闇のない空を百歩あるいて百歩はしる沈黙が解けはじめる

掠れているのに融けぬホテル・レインボーのネオンのじれったさ

無人契約機お自動さんの前 ヘッドライト消える躊躇しながら

熱帯夜のそらにけむりが上ってゆく一筋に吸い込まれて

電柱に両手張りつけアキレス腱を伸ばし夜も屈伸している

(未150312)

アキレス

落語

なめらかにたたみ
まるめこんで
おちてくる
雪をまきことば
はきあげながら
ぐさりとはまって
ことばのわだち
声まきあがり
みかげをみがき
さそってすくい
ふきあげて
まろみこぼれて
舌のつけねの
つけねのさきを
はねのけ化けて
生きたことばの落花生
死んだことばは滝のぼる
まるめろトレモロたたみこみ
そこのけそこのけ
車輪はまわる

(じ160104)

落語

原付

悪鬼に責められて
目が覚めた
アンタが死んだ夢を見たと
連れ合いはいう
なぜか婆ちゃんの原付バイクに
乗って転んで跳ね飛ばされて
――逝ったらどうするんだ?
そのときはそのとき
夢は夢だし明日は明日

(じ151211)

原付

しょうゆラーメン(6首)

どこからか何を揃える大掃除そこにあるのはぼくの混沌

ひさびさの夕焼け小焼けにレストラン華屋与兵衛でオムライス食う

まっすぐにゆけばそれだけショークラブ・リップスのまえで悟りひらける

不惑まであと一年の元旦は味濃いしょうゆラーメンにする

人生の並び替えには本棚にことしも早々二冊くわえる

フロッピー一枚分におさまるよぼくの人生妻に説きおく

(人1999年1月、150101)

ラーメン

ネクタイ

いつからかネクタイを
締めなくなっていた
どうしてこんなことに
気づかなかったのかって
締めるのやめたんだ
ネクタイ締めて
老いてきた
ひさしぶり
喪服にネクタイ
きゅうきゅう締めた

(じ160128)

ネクタイ

みち

どっちみち
こっちみち
あっちみち
そっとみち
やっとみち
ぢっとみち
ぞっとみち
ほっとみち
よってみち
そってみち
だってみち

(じ150717)

みち

提灯ぬぎ

ばさっと提灯を
たたむように
ズボンも
スカートも
ずどんと降ろして
提灯ぬぎで
一日をおえる。
できることなら
ついでに
肋骨も腰骨も
ばさっ もろもろの
脂肪ごと降ろし
灯を消して
いらないもの
みんな通し終えて
赤い雷門も
ちっちゃい命も
ちゃんと
折りたたんで
おやすみなさい

(じ151021)

雷門

落花生

下弦の月の皿に
真空を盛る
雪が雨にならず
真空に消えてゆく
会うことできなくなった
顔が皿に浮かんでいる
こっちじゃテロで
火山噴火で
また逝ったよ
腹をかためて
ぽりっと
また落花生を
割ってるよ

(じ160115)

落花生

呪文

自分の中にいる心地よさにまどろみ
外に出なくてはならぬ苦痛に喘いでいる。
地球に縛りつけられているわたしは
慣性のまま。
じたばたしてなにになる
といいきかせてみる。
(わたしなりの悟り)
時は可付番無限数列の呪文
どこまで数えていけるのか。

(恐150131)

ちちんぷいぷい

非常食

食ってきたもの
食われずきたもの
冷凍庫に
入り浸っていた
ものたち
エビフライに水餃子
酢だこにマリネに中華丼
大むかしの食い残り
食いかけ非常食
思い出してチンして
解かし食べる
まだ食える
また食えた
日脚は伸びて
まだ行ける

(じ160222)

非常食

雪だるま(5句)

息の白確かめながら一歩二歩

行く手にはいつものおでん屋台もなし

女学生ページをめくる毛手袋

きのうきょう間に生まる雪だるま

豆腐汁腹におさまる温かさ

(海150121)

雪だるま

わずかな視力で見つめる
そこの 穴 
そこしか見えないから
そこだけを見る
そこだけを見るから
前に進める
そこだけを見て進むから
生きてゆける

(じ150728)

穴

日脚(5句)

灯台やいま流氷は接岸す

雪を踏む音や交番赤洋灯

冬ざれや白身の厚き茹で玉子

声寄せて伸びる日脚や通学路

春雨や魔女の一撃妻眠る

(り170213)

日脚

大寒

太鼓が響く
締まった太鼓が響きわたる
地下に潜っていた地下鉄の電車が
地上に顔を出したとたんの空気に
太鼓が響いてゆく
レールのうえをきーんと
つたわってゆく
架線をびりびり
ひっかいてゆく
死んでいた生き物たちが
窮屈な都会の隙間から
気配をうかがっている

(じ160121)

寒い

いつか芽を吹くと
楽しみに生き
いつか花ひらくと
楽しみを老いる
いつか旅に出て
いつも旅にある
ちょっと旅を識り
いつしか旅を想う

(じ151019)

旅

地球ゴマ

やっとそこまでやったのに
またトンズラかい
せっかくそこまで登ったのに
また降りてきちまって
生きるはざまを
にげまどっている
どこまでも行きの逃亡者
たぶん地球に果てなんて
ありゃしないから
まわりつづけてるだけなんだろう
地球ゴマみたいに
ひょんと乗っかって
追っかけまわされて

(じ151108)

地球コマ

しまり雪ざらめ雪

鈍重に時間を刻む
土蔵の壁に
しゃらしゃらと
しまり雪ざらめ雪
灯をともして
いるのだろうか
あたりまえのように
内蔵したまま
漏れて来ぬ
ざらめ雪しまり雪
沈黙の重心
植え込んだまま
消えかかった
土壁の家紋
乾き雪
いつにか
風花

(じ160130)

しまり雪

独我論(6首)

両手をひろげつかみにかかる とどくまでの時間にたじろぐ

抜け出して大人になったはずのソコに懐かしい独我論の空洞

たたき崩し奪いたかった「確信」つかまぬままなのにいつか

いき遅れたたいて渡る石橋の向こうにはだし抜けの未来

捨て去るつもりなく捨て去った人生いきるのもまた人生か

言葉の味付けが溶けはじめたからもう一度書きはじめる

(未2002.1)

独我論

はずみ

生きたはずみ
死んだはずみ
生きているはずみ

死んでしまったはずみ
水虫になったはずみ
癌になったはずみ

失職したはずみ
手にしてしまったはずみ
零れていったはずみ

車にあたったはずみ
黒海でおぼれたはずみ
砂漠に降り立ったはずみ

木偶坊と呼ばれたはずみ
出来物のできないはずみ
川に流れてしまったはずみ

たまたま刺されたはずみ
生き恥さらしたはずみ
溺れかかったはずみ

執着しつくしたはずみ
横断歩道を渡ったはずみ
違法駐車のはずみ

エレベーターが止まったはずみ
貝柱にぶっつかったはずみ
波がやってきたはずみ

(じ150922)

はずみ

あみだくじ

きょうが終われば
あみだくじ
あしたが来ても
あみだくじ
どっちみち
なんていわずに
あみだくじ
ねらい定めて
あみだくじ
一発勝負
あみだくじ
問答無用
あみだくじ

(じ150731)

あみだ

半寿(5句)

本年もまずは左手初手水

母半寿霰撥ね除け徘徊す

悴む手成らぬ想ひにしがみつき

松下しごみの曜日のごみの山

壁土の零れる蔵や雪起し

(り)

碁盤

老子

もうそういうの超えて
眺めていられるところへ
来ているじゃあないか
駒ヶ岳の頂は雲のうえ
伊那谷の老子のように
求めず 自在に
居ればいい
在ればいい

(じ150730)

老子

蓄音

寒空に雲のバーコード
つながりそうでまた
解け出してゆく
懐かしいなあ
アナログ蓄音機の
らっぱっぱ
いつの間にか犀川も
デジタルの帯だもの
それぢゃ竜の餌食ってもんさ
48色いろえんぴつも
煤けたほうしか減っていきはしない

犀の川が月を浮かべて流れてゆく
川べりの枯葉擦れざわめき
待つものない家路急ぐ

(じ150930)

蓄音機

カラス

風は去っていった
雨は切れていった
川はがあがあ吠えつづけ
ひともがあがあ息をしている
カラスのようにがあがあと
のども枯れ果て
呼んでいる
呼んでいる

(じ150911)

烏

女神

太いカイナ(腕)が
左差しを許して
スカイツリーのLEDの灯が
ひきづり降ろされた
自由の女神が
闇の中で鼓動をはじめた
何もぶらさげられず
何もぶらさがらず
あるいている
老いてゆく

(じ150921)

女神

ドン・キホーテ(5首)

去年今年棒なぞ見えず在りもせず鳴いて飛ぶのは雁の宿命

とどまって居たくないだけ進化論しんじて渡るふりして渡る

いつからか俺を殺すという使命潰えし妻と餅を頬張る

人生に途中下車なし鈍行で故郷にかえる路も途絶える

今年こそドン・キホーテにならんぞと死ぬるときだけ正気ならよし

(人141231)

キホーテ

めぐりん

浅草で循環バス「めぐりん」に乗ったら
隣りのお母さんの膝にのっかった
一歳七カ月だという男の子から
握手をもとめられた
あどけない顔つき
マカロニのような指のたばは
意外に冷たかった

渋滞つづきのバスを降りると
陽は暮れかけていた
コインランドリーがまわっている
営業をはじめたカラオケ屋から
かすかに光がもれ出してくる
ひとは薄い闇からぬっと
あらわれまた消え入らぬまま
姿を消してゆく
白雲の群れのあわいに
薄星がひとつ浮かんでいた

めぐりん

カント(5句)

大北風尻で蹴散らす道祖神

繭玉や餓鬼大将も知りし恋

外套のカント時計を気に掛けり

我が事の如く語らふ藁仕事

大寒の奏づる音に耳寄せり

(り160112)

カント

知ったかぶり

ぼさりぼさりと
ぼたん雪
ぼやきぼやいて
バスの窓
おむすび山が
ぼんやりと
道いそがねばの
わけはなし
ぽさりぽさりと
知らぬ道
口に出さずに
歩み入る
知ったかぶりを
脱ぎ捨てたくて
ことしこそはと

(じ150924)

おむすび
*飯野山

宇宙塵

脱力した宇宙の隅っこで
シンデレラが掃除屋をはじめた
時間に取り残された舞踏会の
しりぬぐい
記憶と感覚にへばり付いた
宇宙塵が
散乱しはじめている
ただ在るというだけの
時空の底から
竜の眼玉のありかを探って
雑巾を掛ける

(じ151023)

塵

新春(5句)

犀川も戸隠山も寒靄

除夜の坂呆けし母と長命寺

禿頭に香煙浴びて初詣

去年今年つり橋ゆられゆらしつつ

手すき紙の背筋すっきり筆はじめ

(り170113改)

新春
*戸隠山

手水

一身上の都合で
歩き出していた
不埒な輩が
凛々しい一葉の
石像のある
小さな神社の
鳥居をくぐり
手水舎にて洗心
二拝二拍手
一拝 一葉の鋭い眼
気にしながら
ふっと呟いている

手水
*千束稲荷神社

元日

一ミリ幅のボールペンの線を
引きはじめる
ことしはちょっと太く
書きはじめる
朝からうしろに
煙が立っているから
御影石の橋を渡り
照り返る夕暮れの伽藍を
ゆるり横切り
心の劈開面を
一めくり
戸隠山の地主神
九頭龍権現
川ながれ立つ小波
犬でも連れて
そのままゆけば
それでいい

(じ160101)

権現
*九頭龍権現

大晦

ベンチのない公園で
座る場所を探している
降りるだけのバス
乗せたばかりの人力車
床屋の回転灯が
神の一撃で
灯を落とす
賽は投げられたまま
年をまた越える
離合集散ひと犬くるま
散らばったままの
言葉の切れ端が
時間の電線にひっかかっている
ちぎり取りつなぎ合わせて
得るものも失せるものも
憤りなく吐き捨てられ
むしり取れない
切り取り線だけが
鮮明な痕跡をとどめている

(じ151231)

晦日

仙人

空気が尖がっている
そうだ 生きてるって
酸化還元脱臭反応
馬のうえかららっきょう摘んで
雲をまたいで飛んでった
御嶽乗鞍駒ヶ岳
そこまで登れば
そこから行ける
何も語らず
霞を喰らい
息もしないで
そこにある

(じ151209)

仙人

いつか芽を吹くと
楽しみを生き
いつか花ひらくと
楽しみに老いる
いつか旅に出て
いつも旅にある
ちょっと旅を識り
いつしか旅を想う

(じ151019)

旅

昇ってゆくときゃ
凧あげみたいに
風に揺られ
踏ん張って
風に乗ったら
押し戻されて
力んでみたら
逆さまで
乗っているのか
乗っかられてか
知らず知らずに
糸たぐられて
降りたくなっても
なりゆくままに
あっ
落っこちちゃった
ぷっつり
糸きれたんか

(じ151013)

糸

バトン

つなごうと走ってゆく
断ち切ろうとぶちかます
言葉のシグナル
心のバウンド
音のドリブル
光のバトン
パスは途切れたのか
まだ連なるか
まだ走れるのか
まだ生きているのか

(じ151120)

バトン

かんむり

あなかんむりの空に窓
あめかんむりに雲や雪
うかんむりの家には室
おいかんむりの者は老
おおいかんむり覇に覆
くさかんむりの花や草
だいかんむりは奮に奪
たけかんむりで算と答
はつがしらは登り発つ

かむっていた冠の結び
ほどき始めるときかな

(じ160210)

冠

山眠る

吊橋に吊られて
山が眠っている
彩が覆い雪が舞って
山は眠っている
クリスマスソングが巷を覆っても
山は眠っている
生きるにはもう時間があるから
山は眠ったまま
死ぬにはまだ時間がないから
山は眠ったまま

(じ151216)

山眠る

クリスマスイブ

土蔵の壁に
へばり付いた
七色の電飾が
それでもと
聖夜を主張して
点滅している
月に黒雲の輪が
巻きついて
離れない
病床六尺
それでもまだ
居る

(じ151224)

クリスマス

雪あられ

てんぷらを揚げる音がして
雪あられが落ちてきた
ぱらぱらと歯切れよく
水と油の化かし合い
離れちまえば
ドーってことない
ふっきれそうな
気になった

(じ160129)

あられ