毎回ランナーを出しながら
追加点を許さず粘投する投手に
視線を投げたり眼を伏せたり
いつもの反復運動をベンチの奥で繰り返す
青き北軍の将。僅差のゲームは
浮いては退き尽きては蘇りながら
波乱含みの大詰めに入っている

私はビールに濡れた口蓋で二度三度
枝豆をはじかせている。直球で押し切るか
フォークを落とすのかそれとも
大きく曲がる高速スライダーかなんて
どんでん返して打球の描く放物線は
網膜へと投影されて不透明な
推測だけがネットを泳ぐ

最後の攻防を前にしてマウンドを囲み
円陣が組まれはじめた。
内野も外野も敵も味方も控えも観客も
敬礼の儀仗兵までもがぞろぞろと
北緯三八度線に沿って弧を描く
南軍は赤いカーペットを敷いて
ベンチの奥から北の将を招き入れてゆく

敵 味方 分断の境目に沿って
マウンドを囲んでゆく見果てぬ円陣 
そしてマウンドの真ん中には白球
いや一触即発のスイッチだろうか。
晴れ渡った球場には核の傘
円陣の境界をぴょんと
敵将同士が手をつないで越えてみせる

タブレットの前 口にした枝豆が跳ね
屈曲して歯茎に捕らえられる
北緯三八度のドロー
いかさまには決着はつかないのか。
ふっと枝豆の舌触りをたしかめてみる
闇に溶けきれない音と光の泡沫の舞う
九回の攻防はまだつづいている

(思8月)

円陣